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特集TERASOLUNAのグローバル展開をレポート
vol.1 海外リソースを活用する「グローバル標準」の実現に向けて
掲載日:2011年8月10日
グローバル・デリバリ・モデル(GDM)
各業界でビジネスのグローバル化が一段と進んでいる。システム開発においても、世界中のエンジニアや開発会社などのリソースを最適化し活用する「グローバル・デリバリ・モデル(GDM)」の確立が重要となってきている。GDMとは、従来から行われてきたオフショア開発のように、単に海外の安価なリソースを利用してコスト削減を目指すだけではなく、最新技術や業務知識、人材など世界各国の豊富なリソースから選択して効率的に活用することである。
金融分野でいえば、海外で使われている最新の金融のリスク管理パッケージソフトウェアを利用したい場合に、そのパッケージの開発経験が豊富なエンジニアがインドに多いのであれば、インドのリソースを利用することが理想的なアプローチとなる。
近年、このようなGDMのニーズは非常に高まっており、各企業が取り組みを行っている。しかし、海外リソースの活用には課題もあり、実効的なGDMの確立が求められている。本稿では、GDMを確立するためのポイントと、GDM実現への一例としてNTTデータの「グローバル標準」の取り組みについて紹介したい。
海外リソースの活用における課題
現在のシステム開発においても、海外で開発を行うケースは多くみられる。しかし次のケースのように、開発に関するわずかな意識の違いから失敗を招く場合がある。
ケース1:「作業分担の意識ズレにより問題が生じたケース」
ある証券会社のケースでは、インドの開発会社と試験に関する意識のズレが原因となり、追加投資が発生する事態を招いた。試験環境を整えるのは、日本では通常、開発を請け負う会社であるが、インドでは発注側であるのが一般的である。この開発文化からくる意識のズレにより、インドの開発会社が十分な試験を実施しないまま納品が行われ、納品後に試験の未実施が発覚した。
ケース1は、作業分担を含めた開発手順の意識が日本と異なることを考慮し、事前に開発手順を規定しておく必要性があることを示している。しかし、開発の度に規定するのでは非常に効率が悪い。そこで、どの開発にも汎用的に利用できるよう、開発手順を標準化しておくことが必要となってくる。
しかし、単純に開発手順を標準化しても海外での開発が成功するわけではない。以下のケースのように、開発自体が成功しても、思わぬところから問題となるケースがある。
ケース2:「地域による要求特性の違いによる問題が生じたケース」
ある銀行のケースでは、海外の業務パッケージをベースにインドの会社でアジャイル開発を進め、開発自体は成功した。しかし、その後にシステムの設計書が不足しているとの金融庁から指摘を受けることとなった。日本では、品質を確認する上で設計書等のドキュメントが求められることが当たり前となっているからである。アジャイル開発では出来上がったソースコードが重視されるため、インドの会社では設計書の作成を重要と考えていなかった。その結果、開発されたシステムには問題がなかったものの、日本では必要とされる設計書類が作成されなかった。
ケース2の教訓は、「アジャイル開発」という世界的には一般的な開発手順においても、地域により求められる成果物が異なってくるという点である。そのため、地域別の顧客が求めるものに応じて開発の手順や成果物の標準化を整備する必要があるといえる。
地域特性と「グローバル標準」
前述の海外の開発ケースからも言えるように、現実に適したGDMの確立には、地域別に開発手順等を標準化することが重要である。
このような例として、NTTデータの「グローバル標準」の取り組みを紹介したい。NTTデータでは、お客様のグローバルビジネスのサポートを目指し、海外拠点を拡充している。多くの海外拠点を持つ強みを生かし、開発パターンが最も発達している拠点で、実現性を検証しながらのグローバル標準の策定を進めている。
スクラッチSI(※1)については、大規模開発であれば、中国へのオフショア開発も含めて、実績の豊富な日本国内の開発がベースとなる。中小規模開発であれば、適用件数の多い東南アジア地域を中心とした開発手順の策定が既に完了し、適用段階に入っている。アジャイル開発であれば、欧米向けシステムの開発が多く技術力が高いインドと試行を繰り返しながら、日本向けにはお客様との契約形態を考慮し、ドキュメント化をタスクに含めるなどの検討を行っている。
パッケージ開発などの特定のソリューションがベースになるものについては、後に述べる「Global One Team」の取り組みの中で、開発手順や開発環境の整備を進めている。
また、海外拠点での活動のなかで、地域特性が大きく生じる開発手順に対し、開発ツールやフレームワーク等の開発環境は共有が図りやすいことが分かってきた。ERPなどのパッケージ開発以外の場合でも、地域特性だけでなく、開発パターンにもよらず、ある程度共通の開発環境を利用することも可能である。次にスクラッチSI、パッケージ開発それぞれの取り組みについて説明する。
※1:スクラッチSI
特定の業務パッケージを使わずに、顧客要件から個別にシステムを構築する開発パターン。カスタマイズが求められる日本のシステムの開発に多い。
地域別のスクラッチSI開発手順と共通の開発環境 -TERASOLUNA※2の適用-
スクラッチSIの「グローバル標準」の整備には、NTTデータの社内標準であるTERASOLUNAを用いることで効率的な展開を行っている。TERASOLUNAは、開発手順のほか、開発環境とサポートで構成され、NTTデータのシステム開発を支えるソリューションである。
TERASOLUNAの開発手順はカスタマイズも想定した内容となっているため、海外子会社の優れたノウハウを取り込むことができ、「グローバル標準」に求められる開発パターンや地域別の開発手順の作成に柔軟な対応ができる。
またTERASOLUNAの開発ツールやフレームワーク等の開発環境は、従来から国際的なデファクトスタンダードに基づいているため、海外の開発会社にとっても利用しやすく、開発環境の共通化に適しているといえる。
日本国内と海外拠点との開発環境が共通化していくことで、例えば、国内の開発で蓄積した共通的な業務処理部品や、コード生成を行う自動化ツールが海外拠点で利用できるようになるなど、NTTデータのノウハウの展開を図ることができる。また、逆に共通の開発ツールを利用していくなかで、海外の豊富なリソースを活用して、それらのツールに最新の技術を取り込んでいくといった展開をすることもできるようになる。
Global One Team
NTTデータグループでは、グループ内の様々な組織を結集し、ひとつのチームとしてグループシナジーを創出すべく、お客様や業界やソリューションなど、共通するテーマごとにひとつのチームを作る「Global One Team」の取り組みを進めている。先にも述べたように、ERPやビジネスインテリジェンス(BI)など業務知識を必要とされ、特定のソリューションがベースになるパッケージ開発については、開発の標準化もこの「Global One Team」の中で進められている。
例えばSAPソリューションに関しては、国内外のNTTデータグループ会社の持つSAP事業のリソースを最大限に活用し、お客様にワンストップでグローバルベストプラクティスを提供するためのグループ内の連携体制「SAP Global One Team」を2011年2月8日に発足させた。「SAP Global One Team」はNTTデータを含む国内外のNTTデータグループ12社、全29ヶ国、約5000人のSAPコンサルタントから構成されている。
SAP Global One Teamでは、グローバルレベルでタスクフォースを立ち上げ、開発手順や開発環境に関連して、以下のような取り組みを行っている。
- ソリューション連携
- 国内外のグループ会社が持つSAPアップグレードツール、SAPテストツールなどのツール共有と、全世界のお客様へのツール提供。タスクフォースによる、新たなSAPツールの開発。
- 業務ノウハウ
- 国内外のグローバル企業向けシステム構築で培った業務知識のSAPテンプレートへの集約と、全世界のお客様への提供。業務ノウハウの情報共有と、タスクフォースによる新たなテンプレートの開発。
SAPコンサルタントによる国の商習慣、税法などへのローカライズ対応。 - プロジェクトマネジメント
- 国内外の経験で得たプロジェクトマネージャーのタスクやロールを標準化し、全世界で情報共有。標準化されたプロジェクトマネジメント方法論を展開し、SAP Global One Teamとして高品質なプロジェクトマネジメントスキルを確保。
これらの活動を通して、国内外の関連要員の連携を実現し、SAPの開発・テストにかかわる納期の短縮を目指していく。またさらには、お客様ごとの保守運用を各拠点連携して対応し、365日・24時間対応可能なシステム運用により現地法人の営業開始時間・営業終了時間を意識しない“眠らないデータセンター”を提供することも計画している。
※ロールアウト、ロールインのグローバルメソトロジーとは、世界各地にグループ会社をもつグローバル企業が、グループ全体でテンプレートを各地域の現地法人に展開する手順のこと。海外の現地法人に展開することをロールアウト。また、その逆に各地域会社がテンプレートを受け入れることをロールインと呼ぶ。
グローバルビジネス展開のパートナーとして
海外のリソース活用が検討される場合、単にインドや中国などのコストも安く人材の豊富な地域のリソースを活用することだけが目的とされることも多い。しかし、GDMとは、最初に述べたように、最新技術や業務知識、人材など世界各国の豊富なリソースを効率的に活用することを目指す必要がある。NTTデータの目指すGDMとは、お客様のグローバルビジネスの要件にあわせて、世界各国の開発拠点を活用した最適なシステム開発を提案していくことである。
今後も、NTTデータでは、海外グループ会社との連携を強め、海外リソースを最適に活用できるGDMの確立を目指し、グローバル標準の整備を進めていきたい。
参考リンク
グローバルレベルでのSAPビジネス推進にむけたグループ会社連携体制を構築
(2011年2月8日 NTTデータ ニュースリリース)
目次:「グローバル展開におけるTERASOLUNAの取り組み」
- vol.1 海外リソースを活用する「グローバル標準」の実現に向けて
- vol.2 グローバル・デリバリ・モデル確立に向けたTERASOLUNAの活用
- vol.3 グローバル展開状況レポート:現場へのインタビュー(1)
- vol.4 グローバル展開状況レポート:現場へのインタビュー(2)